大判例

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仙台高等裁判所 昭和63年(ネ)45号 判決

昭和六三年(ネ)第四五号事件被控訴人(第一審原告)

小川昌義

坂下正明

佐藤隆

昭和六三年(ネ)第四七号事件控訴人(第一審原告)

長津章

阿部直光

新野正志

右六名訴訟代理人弁護士

松倉佳紀

鈴木宏一

松沢陽明

馬場亨

昭和六三年(ネ)第四五号事件控訴人、第四七号事件被控訴人(第一審被告)

日本電信電話株式会社

右代表者代表取締役

児島仁

右支配人

和田紀夫

右指定代理人

小林元二

外二名

主文

一  昭和六三年(ネ)第四五号事件について

1  原判決中、被控訴人坂下正明に関する部分を次のとおり変更する。

(一)  控訴人は、被控訴人坂下正明に対し、金一万五四八八円及び内金七七四四円に対する昭和五三年六月二一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  被控訴人坂下正明のその余の請求を棄却する。

2  被控訴人小川昌義、同佐藤隆に対する各控訴を棄却する。

3  控訴人と被控訴人坂下正明との間に生じた訴訟費用は、第一、二審とも同被控訴人の負担とし、控訴人とその余の被控訴人らとの間に生じた控訴費用は、控訴人の負担とする。

二  昭和六三年(ネ)第四七号事件について

1  原判決中、控訴人新野正志に関する部分を次のとおり変更する。

(一)  被控訴人による訴訟承継前の日本電信電話公社が昭和五三年六月二〇日付でした控訴人新野正志に対する停職の懲戒処分は、無効であることを確認する。

(二)  被控訴人は、控訴人新野正志に対し、金一〇万〇七四六円及び内金九一九八円に対する昭和五三年六月二一日から、内金八万二三五〇円に対する同年七月二一日から各完済まで年五分の割合により金員を支払え。

(三)  控訴人新野正志のその余の請求を棄却する。

2  控訴人長津章、同阿部直光の各控訴を棄却する。

3  控訴人新野正志と被控訴人との間に生じた訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とし、その余の控訴人らと被控訴人との間に生じた控訴費用は、同控訴人らの負担とする。

事実

第一  当事者の申立

一  昭和六三年(ネ)四五号事件について

1  控訴人

(一) 原判決中、被控訴人らに関する控訴人敗訴部分を取消す。

(二) 被控訴人らの請求を棄却する。

(三) 控訴人と被控訴人ら間に生じた訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

2  被控訴人ら

(一) 本件控訴を棄却する。

(二) 控訴費用は、控訴人の負担とする。

二  昭和六三年(ネ)第四七号事件について

1  控訴人ら

(一) 原判決中、控訴人らに関する部分を取消す。

(二) 被控訴人による訴訟承継前の日本電信電話公社がいずれも昭和五三年六月二〇日付でした控訴人長津章、同阿部直光に対する各戒告及び控訴人新野正志に対する停職の各懲戒処分は、いずれも無効であることを確認する。

(三) 被控訴人は、

控訴人長津章に対し、金三一万〇二七六円及び内金三〇万五一三八円に対する昭和五三年六月二一日から完済まで年五分の割合による金員を、

控訴人阿部直光に対し、金三一万二二〇八円及び内金三〇万六一〇四円に対する昭和五三年六月二一日から完済まで年五分の割合による金員を、

控訴人新野正志に対し、金六〇万〇七四六円及び内金五〇万九一九八円に対する昭和五三年六月二一日から、内金八万二三五〇円に対する同年七月二一日から各完済まで年五分の割合による金員を

それぞれ支払え。

(四) 控訴人らと被控訴人間に生じた訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(五) 仮執行宣言。

2  被控訴人

(一) 本件各控訴を棄却する。

(二) 控訴費用は、控訴人らの負担とする。

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、次に付加、訂正するほか、原判決事実摘示のとおりである。

一  昭和六三年(ネ)第四五号事件について

1  原判決九九枚目裏二行目の次に行を改めて「なお、週休予定者の週休日を変更してその者を代替勤務にあてるということは、週休というものの性格、就業規則三一条一項の「業務上やむをえない理由があるとき」という文言の趣旨及び公社(控訴人による訴訟承継前の日本電信電話公社の略称)と全電通(全国電気通信労働組合の略称)との労使慣行、すなわち真にやむを得ない場合で本人の同意があるときのほかは週休の変更をしないこと等にてらし、安易になされるべきでなく、週休予定者がいたことをもって代替勤務者をあてることが容易であったとすることはできない。」と加える。

2  同二二枚目表六行目の次に行を改めて「なお、第二整備課においては、その勤務形態がほとんど常日勤服務の定型勤務であり、年休取得による欠務補充のために、勤務割変更により週休者に代替勤務させるという取扱いをしたことはない。」と加える。

3  同八〇枚目表一行目「足りる。」の次に「そして、比較的長期の期間内に一定の仕事を完成させればよいのであるから、個々の具体的作業の日程変更が弾力的に行われ、職員がいつ年休を取得しても作業内容の調整により対応することができ、代替者補充の必要はなかった。」と挿入する。

4  同八一枚目表一行目の次に行を改めて「(4)なお、第二整備課においても、必要があるときは勤務割変更により代替勤務者をあてることも可能であってこれをなすべきであり、これまでその実例がなかったのは、必要な事態が生じなかったためである。」と加える。

5  同八二枚目表三行目から五行目までを「(3)被控訴人坂下は、五月一九日から同月二二日までの年休を同月一六日に指定しているのであり、控訴人において代替勤務者を捜すのに十分な時間的余裕があった。それなのにこれをしないで、五月一八日になってから時季変更権を行使した。」と改める。

二  昭和六三年(ネ)第四七号事件について

1  同八四枚目裏五行目の「よって」以下末尾までを「このように控訴人長津が受ける職場訓練は、非代替的なものではあるが、後日あらためて訓練をうけることも可能であって、非回復性のものではないから、五月一九日当日の年休取得によって、被控訴人主張の事業の正常な運営を妨げる事情は存しなかった。」と改める。

2  同八八枚目裏六行目「したがって」から九行目末尾までを「現に行われた棚卸作業は、福島通信部配給課の人の案内でケーブル保管場所に赴いて、品名とドラムの形などを確認しながら棚卸表と現物の照合をするものであり、控訴人新野が年休を取得しても、もう一人の出張者(武者)のみでその業務を遂行できるものであった。」と改める。

第三  証拠〈省略〉

理由

第一昭和六三年(ネ)第四五号事件について

当裁判所は、被控訴人小川と同佐藤については、両名の本訴請求が原判決認容の限度で正当であり、その余は失当と判断し、被控訴人坂下の本訴請求は、主文一1(一)の限度で正当であり、その余は失当であると判断するが、その理由として、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決理由中被控訴人らにかかる説示部分を引用する。

一被控訴人小川について

1  原判決一二五枚目表七行目「同日」を「同月一九日」と改める。

2  同一二六枚目表三行目につき、「証言(一部)」の次に、「、証人大内義昭の証言(当審)」を加え、「尋問内の結果(一部)」を「尋問の結果(原審及び当審の各一部)」と改める。

3  同一二八枚目表(二)の全文(同表一行目から六行目まで)を次のとおり改める。

「右見直し作業は、二名でも実施できるが、三名で行う方が正確にできるし、効率的であり、作業期間も三日間と限定されていたので、各作業日に三名配置の予定で実施することになった。ところで、被控訴人小川が年休の時季指定をした五月一九日には、二名で作業をしているが、これは、他の建設工事に要員を配置したためであった。」

4  同裏四行目「一〇時」の次に「三〇分」を加える。

5  同一二九枚目表六行目から同裏五行目までを削除し、同六行目「(リ)」を「(チ)」、同一〇行目「(ヌ)」を「(リ)」とそれぞれ改める。

6  同裏一〇行目「始業時」の次に「(午後八時三〇分)」を、同一三〇枚目表三行目「終業時」の次に「(正午)」をそれぞれ加える。

7  同表末行「右作業は」から同一三一枚目裏五行目までを「右作業は、五月一九日(金曜日)から日曜日をはさんで二二日(月曜日)までの三日間で実施することが要請され、これを正確かつ効率的に行うべく各作業日三名の担務で行う予定であったのであるが、元来、作業自体は、二名でも可能だったのであるから、三名の配置にはゆとりがあり、また、予定の期間内に作業を完了すればよかったのであるから、期間的にも融通性があり、弾力的に調整可能な作業であったというべきである。現に、初日の一九日は、他の業務が多忙なため二名のみで作業を実施しているし、当日の二〇日は、四名の勤務予定者のうち、三名(被控訴人小川を含む。)が右作業の担務予定であり、残り一名(千葉係長)は、他の業務のため右作業の担務を代行できない状況であったのに、右作業の担務予定であった郷内が、当日になって、家の都合との理由で指定した二時間(午前八時三〇分から一〇時三〇分まで)の年休に対し、時季変更権を行使せず、その取得を認めているのである。加えるに、当日(土曜日)における被控訴人小川の勤務予定が短時間日勤勤務(午前八時三〇分から正午まで)であったことをも考慮するならば、前日の一九日に、右被控訴人がした年休の時季指定に対し、畑山課長が前記時季変更権を行使した時点において、同被控訴人が翌日である当日の年休を取得することにしても、第二整備課の事業の正常な運営を妨げるおそれがあったものとは認め難いというべきである。

もっとも、畑山課長が当日被控訴人小川の予定業務を代行したことは、前認定のとおりであるけれども、右作業の前叙調整性、同課長の右代行時間(午前一〇時半から正午まで)、同被控訴人より遅れて、当日になり指定のあった郷内の前叙年休取得(午前八時三〇分から同一〇時三〇分まで)が認められた経緯等に照らし、先になされた時季変更権行使の適否に影響を及ぼす事由となるものではない。」と改める。

二被控訴人坂下について

1  原判決一三四枚目裏八行目「坂下は、」を「坂下が」と改める。

2  同一三七枚目表末行「乙」の次に「第一号証の一ないし三」を加え、同裏一行目につき、「の各証言」の前に「、同瀬戸輝雄(当審)」を「原告坂下」の次に「(原審及び当審)」をそれぞれ加える。

3  同裏六行目冒頭から七行目「のみで、」までを「監視業務のみであって、同業務は、一名担務で行うことが可能であったが(現に、前日の一九日には、前叙のとおり一名担務であった。)、日勤帯の勤務予定者は、被控訴人坂下と伊藤係員の二名であったところ、」と改める。

4  同一三八枚目表二行目「代替勤務可能な者」を「代替勤務の要員となる者」に改め、同五行目「土曜日一日の日勤勤務者が年休を取得する場合、」を削り、この削除文言を同七行目「通常は」の前に加える。

5  同裏末行「代替可能」から同一三九枚目表一行目「せず」までを「前記週休者などに代替勤務の意向を打診するという配慮はせず」と改める。

6  同表六行目の次に、改行して次のとおり加える。

「公社では、年休の単位につき、一日を単位とするか、半日単位(所定の勤務時間の二分の一とし、二回をもって一日単位とみなす。)又は二時間単位(四回をもって一日単位とみなす。)とすることも認める運用であった。」

7  同(ロ)の全文(同表七行目から同一四〇枚目表末行まで)を次のとおり改める。

「以上の事実に照らして考えると、当日(五月二〇日、土曜日)の業務予定は、一名担務が可能であったところ、午前八時三〇分から午後〇時三〇分までの時間帯は、伊藤係員が短時間日勤勤務の予定であったから、右時間帯につき、被控訴人坂下が年休(午前半日)を取得したとしても、業務の正常な運営を妨げる事情があったものとは認め難い。

しかしながら、当日の午後〇時三〇分から同五時一〇分までは、最低配置人員(一名)として被控訴人坂下が配置されているだけであるから、右時間帯につき、同被控訴人が年休を取得すると、配置人員が皆無となってしまい、直ちに業務上の支障を生ずるおそれがあることは明らかである。

ところで、公社では、前前日の勤務終了時までは、就業規則の定める要件のもとで、勤務割(同規則二六条一項によれば、業務上必要があるときに)又は週休日(同規則三一条一項によれば、業務上やむをえない理由があるときに)の変更を一方的になし得るのであるが、勤務割変更、殊に週休日の変更は、その変更を受ける職員に少なからぬ負担を与えるものであるため(このことは、例えば、当日の週休予定者に関する前叙ロ(イ)前段の事情からも、明らかといえよう。)、実際の運用においては、やむを得ない事情がない限り、常に本人の同意を得て行われていたし、勤務割を勤務の前日又は当日に変更する場合は、公社と全電通との団体交渉において本人の同意を必要とする旨の合意がなされていた(原判決一〇九枚目表九行目から同裏末行までの説示を引用する。)。そして、右本人の同意につき、第二電力課においては、年休権を行使する者が、予め代替勤務者を捜して同意を取り付け、そのうえで課長に年休の時季指定を申し出で、課長は、右申出でに基づいて、勤務割を変更(週休日の変更を含む。)し代替勤務者を配置するというのが慣例であった。それゆえ、週休等勤務予定外の職員にとって、予め一般的に予備の代替勤務がありうるものと受けとめられているような職場の実態ではなかったのであるが、同課における右慣例は、年休権者と勤務割の変更を受ける者との利益調整を図るうえで合理的なものというべきである。それなのに、被控訴人坂下は、右慣例の方法によらないで年休の時季指定をしたのである。

これらの事情を考慮するならば、被控訴人坂下による右の時季指定にかかる同日午後の時間帯については、佐藤課長に対し、勤務割変更の対象となる職員に代替勤務の同意を得べく意向打診することを求めるのは、慣例による従前の対応を超えて通常の配慮以上のことを要求するものというべきであるから、同課長において、使用者としての通常の配慮によったのでは、代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況にはなかったものであると判断するのが相当である。右時間帯につき、被控訴人坂下が年休(午後半日)を取得することは、第二電力課の事業の正常な運営を妨げることになるといわなければならない。」

8  同一四〇枚目裏七行目につき、「和美の証言」を「和美、同瀬戸輝雄(当審)の各証言」と改め、「原告坂下」の次に「(原審及び当審)」を加える。

9  同一四一枚目表七行目から一〇行目までを「認める取扱いであった。そして、その代替勤務者については、前叙のとおり年休権を行使する者が同意を取り付けて申し出るのが慣例であり、この申出でに基づき、勤務割を変更して補充していたのである。」と改める。

10  同表末行「結局」から「者は」までを「ところで、当日は、日曜日であり、日勤者が一名だけなので、この者に代替させると、そのまた代替者を捜さなければならなくなる状況であった。また」と改める。

11  同一四二枚目表六行目「拒否」から九行目「ないなど」までを「拒否していた。そこで、佐藤課長は、被控訴人坂下が同課の慣例にしたがった申出でをしないばかりか、年休取得の理由を明らかにしていなかったので、」と改める。

12  同裏(ロ)の全文(同裏末行から同一四四枚目表五行目まで)を次のとおり改める。

「以上の事実に照らして考えると、五月二一日、二二日の両日に亘る宿直宿明勤務は、最低配置人員の一名であったから、被控訴人坂下が年休を取得すると、配置人員を全く欠くことになり、直ちに第二電力課の業務に支障を及ぼすことは避けらず、その代替勤務者を週休等勤務予定外の職員から確保するために、勤務割変更(週休日の変更を含む。)が必要であったことはいうまでもない。ところで、既に説示した同課における右勤務割変更についての慣例と実態、それにもかかわらず、被控訴人坂下が右慣例に従わなかったことなどの事情を考慮するならば、同被控訴人が右勤務予定の両日に年休を取得することは、先に説示した五月二〇日午後の場合と同様、同課の事業の正常な運営を妨げるものというべきである。」

13  同一四四枚目表(3)の全文(同表六行目から一〇行目まで)を次のとおり改める。

「以上検討したところによれば、公社の被控訴人坂下に対する前記時季変更権の行使は、イ 五月一九日及び二〇日の午前(半日)については、労基法三九条三項但書所定の要件を欠く不適法なものであって無効であり、ロ 五月二〇日の午後(半日)及び二一日、二二日については、仮に、同被控訴人に対し成田空港開港阻止の現地闘争に参加させないようにする意図もあって行使されたものとしても、前記条項但書所定の要件が客観的に存するのであるから、適法有効であるというべきである。」

14  同二二九枚目裏「四 年休の成否」(同裏末行から同二三〇枚目表一〇行目まで)のうち、被控訴人坂下に関する説示を次のとおり改める。

「以上の次第で、被控訴人坂下の年休権行使(時季指定)は、権利の濫用とはいえないところ、右年休の時季指定のうち、1 五月一九日及び二〇日の午前半日については、時季変更権の行使が無効なので、右指定による年休が成立し、就労義務が消滅したものというべきであり、2 五月二〇日の午後半日及び二一日、二二日については、適法な時季変更権の行使によって、右指定による年休成立の効果を生ぜず、就労義務があったものといわなければならない。」

15  同二三〇枚目表「五 本件懲戒処分等の効力」(同表末行から同二三一枚目裏末行まで)のうち、被控訴人坂下に関する説示を次のとおり改める。

「 1 懲戒処分について

公社(懲戒権者は、総裁である。)は、被控訴人坂下に対し、同人が原判決の別表(一)指定日欄記載の日に無断欠席したとして、三か月間減給一〇分の一の懲戒処分をしたものである。

ところで、前記説示のとおり、右指定日のうち、(一)五月一九日及び二〇日の午前半日については、年休が成立し、就労義務が消滅したのであるから、無断欠勤にはならないが、(二)五月二〇日の午後半日及び二一日、二二日については、年休成立の効果を生じなかったのであるから、出勤しなかったことは、無断欠勤になるし、また、時季変更権の行使は、右指定日に当初の勤務予定に従って勤務することを命ずる職務上の命令にほかならないのであるから、右欠勤は、右就労命令に違反するものである。そして、被控訴人坂下の右(二)の所為は、日本電信電話公社法三三条一項所定の業務上の規程に当たる公社の就業規則五九条三号(上長の命令に服さないとき)・一八号(第五条の規定に違反したとき)、五条一項(職員は、みだりに欠勤し・・・・・てはならない)の懲戒事由に該当するといわなければならない。

次にこのような懲戒事由該当の所為に対して、どのような内容の懲戒処分を行うのが相当であるかの判断については、懲戒権者の裁量が認められているものと解すべきである。ところで、被控訴人坂下の前記(一)の所為を懲戒事由に当たるとした判断は、誤りであるといわなければならないが、このことを考慮にいれても、本件に現れた諸般の事情に鑑みれば、懲戒事由に該当する右被控訴人の前記(二)の所為との対比において、減給(一〇分の一、三か月間)の処分が甚だしく均衡を失し、社会通念に照らして合理性を欠くなど裁量の範囲を超えた違法なものであるとはいうことができない。

そうすると、被控訴人坂下の本訴請求中、右減給処分の無効確認、減給された未払賃金(遅延損害金を含む。)の支払及び右減給処分の違法を理由とする慰藉料(遅延損害金を含む。)の支払を求める部分は、理由がないというべきである。

2 賃金カットについて

公社は、被控訴人坂下に対し、六月二〇日に支給すべき六月分の賃金から原判決の別表(二)の未払賃金のうち賃金カット欄記載の金額を、同別表(一)指定日欄記載の日の欠勤分として控除したものである。そして、弁論の全趣旨によれば、右被控訴人に対する賃金カットの金額二一、一二〇円は、減額時間(休憩時間を除いた実労働時間の合計、分以下切捨)たる三〇時間に、一時間当りの単価(基本給等月額をもとに算定)たる七〇四円を乗じて算出されたものと認めることができる。

ところで、前叙のとおり、被控訴人坂下がした年休の時季指定日のうち、(一)無断欠勤にならない日(五月一九日及び二〇日の午前半日)の賃金カットは、違法無効であるが、(二)無断欠勤になる日(五月二〇日の午後半日及び二一日、二二日)の賃金カットは、適法有効というべきである。そこで、右(一)の賃金カット相当額を算出するに、休憩時間を除いた実労働時間は、一九日につき七時間四〇分(八時三〇分から一二時までの時間に一三時から一七時一〇分までの時間を加えたもの)、二〇日の午前半日につき三時間三〇分(八時三〇分から一二時までの時間)であるから、その合計時間(一一時間一〇分)から分以下を切捨てた一一時間が減額時間であり、これに一時間当たりの単価七〇四円を乗じた七七四四円が求める金額となる。

そうすると、被控訴人坂下が賃金カット相当額(遅延損害金を含む。)の返還及び労基法一一四条による附加金の支払を求める請求は、右(一)の賃金カット相当額七七四四円及びこれに対する支払日の翌日たる昭和五三年六月二一日以降完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金並びに附加金七七四四円の支払を求める限度(主文一1(一))で理由があり、その余につき理由がないというべきである。」

16  同二三二枚目表三行目から同裏二行目までの説示のうち、被控訴人坂下に関する部分を15項のとおり改める。

17同裏四行目「同坂下、」を削り、同二三三枚目表七行目「阿部」の次に「、被控訴人坂下」を加える。

三被控訴人佐藤について

1  原判決二二四枚目裏二行目「第二〇〇号証」の次に「、証人武田実の証言(当審)及び被控訴人佐藤本人尋問の結果(当審)」を加え、同三行目「原告佐藤の供述」を「証人大友(原審)、同武田(当審)及び被控訴人佐藤本人(原審及び当審)の各供述」と改める。

2  同二二五枚目表七行目「便法にすぎなかった。」を「便法にすぎず、通常の現場作業の勤務形態と異ならないのが実態であった。」と改める。

3  同表八行目から九行目にかけて「サービスオーダー工事」の次に「(以下「SO工事」という)」を加える。

4  同表九行目「通例」から一〇行目「同様で、」までを「通例であったが、三名の班編成によるSO工事について、一名に支障が生じた場合であっても、予定された工事量、工事内容からみて、残る二名で、その負担が加重されるとはいえ、予定された作業の実施が可能なときには、例外的に二名の班編成で工事の行われることがあったのであり、三名による班編成が常に最低の必要人員であるとは限らなかった。」と改める。

5  同裏四行目「予定されていた」の次に「のであるが、その工事量及び工事内容は、二名で実施できないことはないものであった」を加える。

6  同裏五行目から八行目までを削除する。

7  同裏九行目「そこで」を「なお、宅内課では、従前」と改める。

8  同裏末行から同二二六枚目表一行目にかけての「SO工事が三名構成で行えない場合」を「三名必要なSO工事につき予定の班に欠員が生じる場合」と改める。

9  同表末行から同裏末行「(ヘ)」までを削除する。

10  同二二七枚目表三行目「(ト)」を「(ホ)」と改める。

11  同裏一行目「(チ)」を「(ヘ)」と改め、翌二行目末尾に続けて「しかし、吉田副課長は、SO工事の経験がなく、実質的に被控訴人佐藤に代替し得る実務能力を有する者ではなかった。」を加える。

12  同裏ロの全文(同裏三行目から同二二八枚目裏九行目まで)を次のとおり改める。

「以上の事実に照らして考えると、被控訴人佐藤がその指定どおり年休を取得したとしても、予定された班構成員の残り二名で、当日予定の業務を遂行し得ないものではなかったのであるから、右年休取得によって予定の人員に不足を生じ、他の職員の負担が相対的に増すことは否めないとしても、その繁忙のゆえに、宅内課の事業の正常な運営を妨げることになるものではないというべきである。

もっとも、当日、吉田副課長が被控訴人佐藤の業務を代行しているけれども、同副課長に実務的な代替能力があったものとはいえないうえ、もともと右代行をせずとも、業務の正常な運営に支障を生ずるほどではなかったのであるから、右代行の事実は、前叙判断の妨げになるものではない。」

第二昭和六三年(ネ)第四七号事件について

当裁判所は、控訴人長津、同阿部両名の本訴請求は、原審と同じくすべて失当であると判断し、控訴人新野の本訴請求については、主文二1(一)(二)の限度で正当であり、その余は失当であると判断するが、その理由として、次に付加、訂正するほかは、原判決理由中控訴人らにかかる説示部分を引用する。

一控訴人長津について

1  原判決一五三枚目裏九行目と一〇行目の各「長津」の次に「(原審及び当審)」をそれぞれ加える。

2  同一五五枚目表一〇行目「上山」を「下山」と改める。

3  同一五六枚目表末行末尾に続けて「この点につき、非回復性のものではないとの理由で業務支障性を否定する控訴人長津の主張は、採用し難いというべきである。」を加える。

4  同一五七枚目表四行目「させるという職場慣行の存在」を「させることが職場慣行といえるまでになっていたこと」と改める。

二控訴人阿部について

原判決一五九枚目表二行目と四行目の各「阿部」の次に「(原審及び当審)」をそれぞれ加える。

三控訴人新野について

1  原判決一八一枚目表五行目と六行目の各「新野」の次に「(原審及び当審)」をそれぞれ加える。

2  同表(ロ)の全文(同表一〇行目から同一八二枚目表一行目まで)を次のとおり改める。

「控訴人新野は、武者運用係員と共に五月一七日に、同月一八日、一九日両日の予定で、福島電気通信部へ資材業務打合せのための出張を命じられたのであるが、その主たる用務は、同部の配給課に保管依頼していた同控訴人担当の災害用予備ケーブルの棚卸実施であり、合せてケーブルのガス圧を点検するようにとの指示を受けていた。

右指示にかかるガス圧点検とは、ケーブルのバルブの先を押してガスの噴出音を聞き、ガスが封入されているかどうかを確かめる程度のものであり、ガス圧測定器を使用しないので、ガス圧が適正な規定値内にあるかどうかの確認はできず、ケーブルの適正な品質の維持管理を図るためのものとはいいかねる点検であった。このような点検は、これまでの棚卸出張において実施された例はなく、本件出張でも、武者係員に対しては指示がなかったので、同係員は、実施しなかった。

なお、ケーブルを含む在庫物品の品質維持については、出納係の分掌とされており、運用係に配置されていた控訴人新野や武者は、いずれもガス圧点検に関する知識や経験をもっていなかった。」

3  同一八二枚目表六行目の次に改行して、次のとおり加える。

「このように、従前、予備ケーブルの棚卸出張は、通常二名で行われていたが、ガス圧点検を伴ったことはなく、割合に楽な出張と受けとめられており、一人でも実施できないことはない出張であった。現に、大高課長も、本件出張については、ガス圧点検がなければ二人で出張しなければならぬほどの作業ではないと考えていた。」

4  同裏四行目「ガス圧点検を含めた」を削る。

5  同裏末行から同一八三枚目表六行目までを削除し、同表七行目「(ヘ)」を「(ホ)」と改める。

6  同裏六行目から九行目までを次のとおり改める。

「(ヘ) 控訴人新野は、五月一八日、一九日に出張せず欠勤したため、武者係員は、一人で出張し、持参した棚卸表と突き合せて、対象ケーブルの品名と数量を確認したが、ガス圧点検は、指示もなかったので実施せずに帰仙した。その際、出張先である福島電気通信部配給課の職員も、武者係員を対象ケーブルの保管場所に案内したのみであり、大高課長から格別の依頼もなかったので、ガス圧点検のため応援するようなことはなかった。また、同課長自身も、右両日管理業務調査のため福島へ出張したのであるが、控訴人新野の欠勤を知りながら、ガス圧点検が実施できるように配慮した形跡が全くなく、帰仙後、武者係員から出張の報告を受けた際も、ガス圧点検に関する確認をしなかった。

(ト) なお、公社と全電通との労働協約により、出張期間中であっても、通常勤務の場合と同様に年休を附与できることが合意されていた(原判決一八九枚目裏三行目から五行目までの説示を引用する。)。」

7  同一八三枚目裏ロの全文(同裏一〇行目から同一八四枚目裏末行まで)を次のとおり改める。

「以上の事実に照らして考えると、本件出張業務のうち、棚卸は、一人でも実施することが可能な作業であったというべきであり、ガス圧点検については、指示された点検方法によったのでは適正な品質管理に資するものとはいえないし、武者係員には指示もなく、大高課長も点検の結果に関心を示していないのであるから、緊急に点検を実施しなければ、第一線材課の業務に支障を及ぼすおそれがあったものとは認め難いというべきである。そうすると、控訴人新野がその指定どおり年休を取得したとしても、同課の事業の正常な運営を妨げる場合にあたるものではないといわなければならない。」

8  同一八五枚目表(3)の全文(同表一行目から八行目まで)を次のとおり改める。

「以上検討したところによれば、公社の控訴人新野に対する前記時季変更権の行使は、労基法三九条三項但書所定の要件を欠くものであるから、不適法で無効というべきである。」

9  同二三〇枚目表三行目「佐藤」の次に「、控訴人新野」を加え、七行目「同新野」を削る。

10  同表「五 本件懲戒処分等の効力」(同表末行から同二三一枚目裏末行まで)のうち、控訴人新野に関する説示を次のとおり改める。

「〈書証番号略〉によれば、控訴人新野は、昭和五三年二月二五日ビラ貼りに関連し逮捕されたこと、並びに同日及び同月二八日、三月一日、三月二四日、二五日に無断欠勤したこと、以上の事由が公社の就業規則五九条三号・一八号及び二〇号に該当するとして、既に同年四月二八日減給七月の懲戒処分に付されていたところ、本件懲戒処分では、懲戒処分期間中にもかかわらず、再三にわたる上長の就労命令及び厳重なる注意を無視し、昭和五三年五月一七日の二時間四五分無断遅刻並びに同月一八日及び一九日の二日間無断欠勤したこと、さらに同月二三日の三時間三〇分及び六月七日の二時間五分の無断遅刻を繰り返したこと、以上の事由が公社の就業規則五九条三号・一一号及び一八号に該当するとして、停職一月にされたものであること(右各懲戒処分に付されたこと自体は、争いがない。)、公社では、停職は、一月以上一年以下の期間とし、その期間中、職務に従事することができず、基本給等の三分の一を支給されるほか、一切の給与を支給されないものとされ(就業規則六一条)、減給は、一月以上一年以下の間基本給等の一〇分の一以下を減じられるものとされている(就業規則六二条)ことが認められる。

ところで、本件懲戒事由のうち、主たる事由と認むべき五月一八日及び一九日両日の無断欠勤については、前叙説示のとおり、控訴人新野の指定によって年休が成立し、就労義務が消滅したのであるから、懲戒事由たり得ないことは明らかといわなければならない。そうすると、他の懲戒事由につき、それがかりに真実存在するものとして、前記処分歴等本件に現れた諸般の事情を考慮しても、停職一月の処分は、甚だしく重きにすぎ、社会通念上、懲戒権者の裁量の範囲を超えるものというべきであるから、違法無効であり、したがって、同控訴人に対する賃金カット(弁論の全趣旨によれば、それは、被控訴人主張の無断欠勤分であって、無断遅刻分は含まれていないものと認められる。)も違法であるというべきである。」

11  同二三二枚目表三行目「同新野」を削除し、同表五行目「減給処分」を「減給処分(新野は停職処分)」と改め、同二三三枚目表七行目「同新野」を削る。

12  以上の説示によれば、控訴人新野の本訴請求は、(一)右停職処分の無効確認、(二)右処分による昭和五三年七月分の未払賃金、無断欠勤による賃金カット相当額及び労基法一一四条による附加金の合計金一〇万〇七四六円並びに右賃金カット相当額金九一九八円に対する支払日の翌日たる昭和五三年六月二一日以降、右未払賃金八万二三五〇円に対する支払日の翌日たる同年七月二一日以降各完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度(主文二1(一)(二))で理由があり、その余(遅延損害金を含む慰藉料請求)につき理由がないというべきである。

第三結論

以上のとおりであるから、昭和六三年(ネ)第四五号事件につき、被控訴人坂下に関する原判決を主文一1のとおり変更し、その余の被控訴人小川及び同佐藤に関する原判決は正当であり、この両名にかかる控訴は、理由がないので棄却することとし、また、昭和六三年(ネ)第四七号事件につき、控訴人新野に関する原判決を主文二1のとおり変更し、その余の控訴人長津及び同阿部に関する原判決は相当であり、この両名の控訴は、理由がないので棄却することとし、訴訟費用につき、民事訴訟法九六条、九五条、八九条、九三条を各適用し、仮執行宣言を付するのは相当でないと認めて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官佐藤邦夫 裁判官小野貞夫 裁判官齋藤清實は、転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官佐藤邦夫)

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